学会からの提言
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- 学会からの提言
- これからの小児歯科保健のあり方について
- 各ライフステージにおける現状と課題および対策
これからの小児歯科保健のあり方について
- はじめに
- 1.小児歯科保健を推進する制度・組織の現状と課題および対策
- 2.各ライフステージにおける現状と課題および対策
- 3.小児歯科保健を担う歯科医師の現状と課題および対策
- 4.小児歯科保健を担う歯科衛生士の現状と課題および対策
- 5.小児歯科保健向上のための国民の意識の現状と課題および対策
- 6.小児歯科保健向上のための医科および関係業種の人々との連携の現状と課題および対策
- まとめ
2.各ライフステージにおける現状と課題および対策
胎児期から乳歯が萌出を開始し、乳歯列完成後永久歯との交換を経て正常な永久歯列の完成までの期間はライフステージの中でも歯科疾患の予防や健全な歯と口腔の成育のためには、最も重要な時期である。
また成人と異なり、直接本人に対する歯科保健活動をするだけでなく、保護者をはじめとする、子どもたちを取り巻く関係者・社会に対するアプローチが重要になってくるのが特徴である。そのため、個人に対する活動とともに、保育所・幼稚園・学校・施設等に対する集団で取り組む歯科保健活動も大変重要であるという特徴をもっている。
(1)胎児期(妊婦を含む)
【現状と課題】
妊娠中の歯科保健活動としては、地域の保健センターや保健所での母子健康手帳交付時での歯科保健指導や、別途、母親教室における研修がある。またかかりつけ歯科医院で妊産婦健診や保健指導を受けている場合もある。
【対策】
- ア. 妊婦の歯科健診は任意健診のため、義務化する
- イ. 産婦人科と歯科との連携により、すべての妊婦に対する歯科保健指導が実施できる体制を確立する
- ウ. 将来的には、小児期からの「かかりつけ歯科医師」の定着により、妊娠時にもすべての妊婦が「かかりつけ歯科医師」を持ち、歯科疾患の予防や保健指導が受けられる状況にする
(2)乳幼児(保育所・幼稚園)
【現状と課題】
1歳6か月児歯科健診および3歳児歯科健診が制度化されており、保育所・幼稚園での嘱託歯科医の配置による歯科健診の定着がされてきているが、健診を受けていない子どもの存在や、治療の必要性があるにもかかわらず健診後受診していないケースもある。う蝕はゆるやかに減少傾向にはあるが、激減する状況にはまだ至っていないのが実状である。特に多発性う蝕を有するリスクの高い子どもに対する事後措置は大切であり、健診を受けてなくう蝕が多い場合は育児放棄による子ども虐待の可能性もあり、担当者の連携により早期対応が必要である。
また、母子健康手帳に関しては、1歳6か月児歯科健診および3歳児歯科健診以外の歯科の記載が少なく、うまく活用されていないのが実状である。
【対策】
- ア. 医科で実施している10か月健診の際に、歯科健診も制度化する
歯科健診の実施が難しい場合でも歯科相談と保健指導を実施するシステムを確立する - イ. 全国的に1歳6か月児歯科健診ではそれほどう蝕はなくても、3歳児歯科健診では増加している場合が多いので、その中間の2歳児歯科健診を制度化する
- ウ. すべての保育所・幼稚園への嘱託歯科医師の配置と歯科健診・集計作業を義務づける
- エ. 母子健康手帳における1歳6か月児歯科健診および3歳児歯科健診以外の歯科健診結果の記録を記載して、歯科保健指導で有効に活用する
- オ. 1歳6か月と3歳児歯科健診以外の歯科健診においても、未受診者に対しては、必ず健診を受けさせるように行政、担当歯科医師、保育士、保健師等、子どもを取り巻く関係者の連携システムを構築する
(3)学校(小・中・高校)
【現状と課題】
学校歯科医が配置され、年1回以上の歯科健診が実施されているが、健診以外のブラッシング指導やフッ化物洗口、保健指導、児童生徒や保護者に対する研修会の開催は、学校の対応や養護教諭の意識、学校歯科医の個人的な能力の差により、学校歯科保健の果たす役割にかなりの差が生じているのが実状である。
【対策】
- ア. 学校歯科医としての義務を十分に果たしていない歯科医師に対しては、助言指導を行い、改善しなければ更迭させやすいシステムに変更する
- イ. 学校歯科医はすべて日本学校歯科医会の会員となる
- ウ. 学校での食育の推進のため、学校の協力を受け、学校栄養士との連携により、歯科からのアプローチを実施する
- エ. 学校歯科医は少なくとも年1回以上の歯科健診・集計作業、指導、研修会を行い、また学校保健委員会へ出席する
- オ. 学校は学校保健安全法に基づき、学校保健計画の策定に学校歯科医も参加させる
- カ. 校長や養護教諭に対する学校歯科保健の推進に関する研修会を定期的に開催する
(4)障害児
【現状と課題】
全国各地に障害者(児)センターや発達センターが設置されてきており、早期のスクリーニングが可能になってきてはいるが、まだ地域間の格差があるのが実状である。また、障害の程度により、通常の保育所・幼稚園へ通っている場合や、専門施設へ通所している場合もあり、その線引きも難しくなっているのが実状である。保育所・幼稚園に通園している障害児の場合はその実態も把握しにくい欠点はあるが、歯科健診や保健指導は実施されていると思われる。しかしながら、障害児施設によっては、嘱託歯科医が存在しないところもある。
【対策】
- ア. すべての障害児施設において嘱託歯科医の配置と歯科健診および集計作業、保健指導を義務化する
- イ. 摂食嚥下障害の子どもに対しては、摂食指導の実施、あるいは大学との協力による摂食指導の専門家による訓練・指導体制の確立を支援する
- ウ. 保育所・幼稚園へ通っている障害児に対しては、特別な指導が難しい可能性があるので、個々の施設に対する適切な指導が必要である。
- エ. 障害児の歯科保健に関しては、地域においてセンター設置が望ましく、その上で歯科医師会と協力して障害児を積極的に受け入れる障害者歯科登録医を育成し、治療困難な場合は高次医療機関を紹介するシステムを構築すべきである