学会からの提言
公益社団法人 日本小児歯科学会 ポジションステートメント
舌小帯切除に関する見解
2024年2月29日
公益社団法人 日本小児歯科学会
昨今、舌小帯切除の有効性がSNSを中心に授乳や発音だけでなく、口腔機能や睡眠時無呼吸に対しても謳われ、その施術件数が急増しているものの、その効果には疑問点が多く、問い合わせが多発しております1,2)。そこで、近年のエビデンスに基づく本会の見解を以下に提示します。
- 明らかな哺乳障害がない場合は、舌小帯を切除する必要はありません。
授乳障害がある場合でも、その原因の多くは授乳時のポジションなどの舌小帯以外の場合が多いため、授乳に関する関連職種と連携をとり、その上で舌小帯に原因があると判断された場合にのみ、十分なインフォームド・コンセントを行った上で舌小帯切除を行います3,4)。 - 舌小帯短縮症による構音障害は、5歳以降に切除術の必要性を判断します。
舌小帯に起因すると思われる発音の障害に関しては、構音機能の発達完了期の5歳以降に判定し、その結果から舌小帯切除術の要否を判断しても機能は十分回復するとされており、構音障害のために早期(2~4歳)に舌小帯切除をする必要性はありません5,6)。 - 舌小帯切除術は保険適応です。
舌小帯短縮症における舌小帯切除術は保険診療で施術できるものであり、高額な自費診療により行うものではありません。
一度誤った方法で不十分な舌小帯の切除を行なった場合、さらにしっかりとした舌の機能の改善を行うには、子どもにより多くの身体的侵襲を与えることになり、施術の難易度も高くなります。国民の皆様におかれましては、舌小帯切除術を受けるにあたり、まず本当に切除術が必要な機能障害があるかどうかを確認するために小児歯科専門医を受診していただくことを推奨します。
舌小帯に関する治療について、ご不明な点があれば、かかりつけ小児科医、小児歯科医にご相談されることをお勧めします。
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舌小帯の異常がみられる小児。小帯のために舌の運動が妨げられたり、舌を出そうとすると小帯に引っ張られてハート型になったりする。5歳以降でこのような症状が見られ、さらに構音に問題がある場合には舌小帯切除が必要となりうる。
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同一小児の舌小帯切除前。舌を出すとハート型になっている。
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同一小児の舌小帯切除後。舌を出してもハート型になっていない。構音機能の改善には、舌小帯切除術だけでなく、適切な構音を行うための舌の動きを学ぶ訓練を行うことも考慮する。
参考文献
1) Tongue Tie Surgery: Inside the Business of Cutting Babies' Tongues. The New York Times. 2023-12-18.
2) 赤ちゃんの舌切開ビジネスが急成長している. Livedoor News. 2023-12-19.
https://news.livedoor.com/article/detail/25560339/
3) Cordray H et al., Quantitative impact of frenotomy on breastfeeding: a systematic review and meta-analysis. Pediatr Res. 2024, 95(1):34-42.
4) 伊藤泰雄, 哺乳障害を伴う舌小帯短縮症患児に対する舌小帯切開の有用性. 日本小児科学会誌. 2014, 118(3):462-474.
5) Wang J et al., The effect of ankyloglossia and tongue-tie division on speech articulation: A systematic review. Int J Paediatr Dent. 2022, 32(2):144-156.
6) 小児科と小児歯科の保健検討委員会, 舌小帯短縮症の考え方. 小児保健研究. 2013, 72(5): 754-756.